日常の文章作成や会話で何気なく使う「はじめる」という言葉。しかし、日本語には「始める」と「初める」という二つの表記があり、見た目は同じでもニュアンスや使いどころが微妙に異なります。
たった一文字の違いを正しく使い分けることで、文章の説得力や読み手への印象は大きく変化します。
本記事では、辞書的な定義から実践的な例文、英語表現を網羅的に解説しています。
「始める」と「初める」の違いとは?意味を詳しく解説
「始める」と「初める」の辞書的な意味と語源を整理
辞書的結論:両語とも基本的な意味は「開始する」で差はありません。違いは読み方と、後述する用例や文脈によるニュアンスの印象差にとどまります。
始める(はじめる)
- 品詞・活用:動詞・下一段活用
- 意味:既に存在する活動・計画・プロセスをスタートさせる。日常的な習慣化やルーティンを始動させる際によく用いられる。学習や業務など、明確に継続性を意識して行動を開始するときに適している。
- 語源:名詞「始め」(物事のスタート地点)+動詞化接尾辞「る」。『源氏物語』(11世紀)にも同義で使われている例があり、長い歴史のなかで定着してきた表現。
- 補足:公用文やビジネス文書での用例も多く、公式・計画的なイメージが強い。
初める(はじめる/そめる)
- 品詞・活用:動詞・下一段活用
- 意味:まったく新しい出来事や未踏の体験に着手する。人生の第一歩やキャリアチェンジなど、過去に類似の経験がないことを始める際に用いる。
- 語源:形容詞「初(うい)」(=最初の)から派生した名詞「初め」+「る」。奈良時代の詩歌集『万葉集』にも「初め」の語形が見られる歴史的な用語で、新規性を強調するニュアンスが特徴。
- 補足:文学作品や自伝的文章での用例が多く、感情的・ドラマティックなニュアンスを伴うことがある。
ポイント:
- 始めるは「既知」や「計画済み」のプロジェクト・習慣に向いている。
- 初めるは「未知」や「ゼロから」の経験・挑戦を示す。
- ニュアンスの違いは用例・文脈によって生じる印象差であり、辞書的には両語とも同じ「開始する」の意味を持ちます。
使用頻度比較:新聞・雑誌のコーパス出現比
- 始める:初める ≒ 15 : 1(2024年国語研 NINJAL-LWP 集計) — 公的文章で「始める」が優勢なため。
それぞれの動詞としての使い方の違い
視点 | 始める | 初める |
---|---|---|
主なニュアンス | 継続性・計画性 | 新規性・未知性 |
典型シーン | 勉強・仕事・運動 | 新生活・留学・起業 |
英語置換 | start / begin / launch | embark on / start anew / venture into |
時間軸 | 長期的(ルーティンとして繰り返し実行) | 一度きり・瞬間的なスタート |
対象の認知 | 既に理解しているプロセスや活動 | 全く知らない分野や経験 |
感情的ニュアンス | 冷静・論理的 | 熱意・探求心 |
イメージ図 | ▶︎▶︎▶︎(途中から続く) | ●(最初の一歩) |
覚え方のコツ:
- 始める:地図上のルートを歩き始めるイメージ
- 初める:地図にない場所へ踏み出し初めるイメージ
それぞれの動詞は、視点を増やすほど違いがはっきりします。たとえば、プログラミング学習では「再開・復習」という文脈なら始めるを使い、全く新しい言語に挑戦するときは初めるを選びましょう。
またビジネスシーンで「新市場開拓」を語る場合には、既存の海外支店への展開なら始めるを選び、まったく新しい地域への進出を示すときは初めるを使うと、意図が正確に伝わります。
細かなニュアンスを適切に使い分ければ、文章の説得力が格段にアップします。SEO対策としても、この違いを盛り込むことで、多様な検索意図をカバーしやすくなります。
「始め」「初め」など関連語との違いも簡単に確認
日本語には「始め」や「初め」以外にも関係語が多く存在します。それぞれの違いを押さえておくと、文章表現の幅が広がります。
形 | 読み | 主な意味 | 例文 | 備考 |
始め | はじめ | 継続行為のスタート地点 | 年の始め は目標を立てがちだ。 | 習慣や定期的行為の起点によく用いる。 |
初め | はじめ | 物事の最初/未経験 | 会議の初め に自己紹介を行う。 | 未経験の体験や最初の場面を示す。 |
始まり | はじまり | プロセス全体の開始から終わりまでの流れ | プロジェクトの始まり は準備が肝心だ。 | 継続的・流動的な始動点からの全体像を強調。 |
初まり | はじまり | 「初め」と同義だが文語的・詩的 | 春の初まり を告げる花が咲いた。 | 現代ではあまり使われないが、詩歌や古典で見かける。 |
始めて | はじめて | 継続行為を開始して | 走り 始めて 5kmで汗だく。 | 動作の継続を示す連用形。 |
初めて | はじめて | 生涯初の経験 | 東京を 初めて 訪れた。 | 経験そのものの新規性を強調する副詞・形容詞的用法。 |
最初 | さいしょ | 時系列の最初 | 最初に自己紹介を行う | 客観的に順序を示す名詞・副詞。 |
元々 | もともと | 当初からの状態 | 彼は元々エンジニアだった | 比較・対照の際によく使う副詞。 |
豆知識:
- 「始め」は新聞用字用語集で優先されるため、新聞・雑誌記事で多用される。
- 古典文学では「初まり」が詩的表現として使われる場合がある。
『初める』は“そめる”と読む?読み方と活用の注意点
- 読み方の区別
- 始める:読みは「はじめる」。日常的にもっとも使われる形で、動作やプロジェクトなど幅広い「開始」を表します。
- 初める:読みは「そめる」。古語的・雅語的な響きをもち、主に文学的表現や慣用句の一部として残っています。
- 活用のポイント
- 始めるは一般動詞として自立して使用でき、「勉強を始める」「春が始まる」のように多彩な目的語や主語と結びつきます。
- 一方で「初める」は 動詞の連用形+初める のみで接尾辞として働き、単独では用いません。
- このとき「動詞の継続的な動きが芽生え始める」というニュアンスを帯びるため、「芽ぐみ初める」「咲き初める」のように、ゆるやかな変化・始動を描写する文脈で好まれます。
- 例文と使い分け
- 季節の訪れ:桜が咲き初めるころ、川沿いを散歩するのが好きです。
- 感情の芽生え:彼の優しさに惹かれ、恋心が芽生え初めた。
- 一般的な開始:新しい習慣を始めるには、まず小さな目標を設定しましょう。
- 誤用注意:✕ 新サービスを初める → 〇 新サービスを始める
- 豆知識
- 「書き初め」や「恋を見初める」など、年中行事・慣用句にも「初める/初め」が含まれ、語感に“おごそかさ”や“特別なはじまり”を添えています。
- 「初(そ)めし」や「初音(そめね)」など古典文学では「そめ」を含む語が多数登場し、日本語の歴史的な語彙の豊かさを物語っています。
実例で理解!「始める」と「初める」の使い分けポイント
例文で学ぶ日常会話とビジネスでの使い方
日常会話
- 今年から 筋トレを始める ことにした。体力づくりを継続するため、週3回は必ずジムに行くつもり。
- 春になると桜が咲き初める頃、川沿いのカフェでお花見をするのが楽しみ。
- 花粉症対策を 始める には早めの薬が鍵。症状が出始める前の予防が効果的なので、今月末から服用をスタート。
- 彼女を一目見初めた瞬間、胸が高鳴った。
- 週末は料理教室を 始める つもり。基本の和食から海外料理まで幅広く学びたい。
- 読書習慣を 始める ため、毎晩寝る前に30分は必ず本を開くようにしている。
ビジネス
- 来期から新規事業を 始める 方向で準備しています。市場調査と社内体制の見直しを並行して進行中。
- 海外市場へ本格進出を 始める 段階です。現地パートナーとの契約締結を間近に控えている。
- アジャイル開発を 始める ことでリリース速度が 2 倍になりました。短いサイクルでのフィードバックを重視。
- Web3 領域へ投資を 始める 企業が増加しています。DAO や NFT の動向を注視しながら戦略を策定中。
- 社内コミュニケーションプラットフォームの導入を 始める にあたり、全社員向け研修を実施予定。
- サステナビリティ活動を 始める ことを宣言し、CSR レポートに新指標を組み込むことにした。
仕事や習い事など具体的な場面ごとの例文
シーン | 正しい選択 | NG例(混同) | 理由 |
---|---|---|---|
英語学習(多少経験あり) | 英語の勉強を 始める | × 英語の勉強を初める | 既に基礎を学んだ経験があるため。 |
まったく未経験の楽器 | ギターを 初める | × ギターを始める | 完全初心者でゼロから。 |
社内で既存業務の効率化 | 改善プロジェクトを 始める | × 改善プロジェクトを初める | 既存業務の延長線上。 |
定年後に農業へ挑戦 | 新たに農業を 初める | × 農業を始める | 未経験分野に挑戦。 |
趣味のランニングを継続 | 週3回のランを 始める | — | 過去にも走っていた。 |
ポッドキャスト配信 | ポッドキャストを 初める | × ポッドキャストを始める | 完全新規コンテンツ。 |
ダイエット習慣 | 毎朝ジョギングを 始める | × 毎朝ジョギングを初める | 以前にダイエット経験がある。 |
新規料理教室オープン | 料理教室を 初める | × 料理教室を始める | 全く新しいクラスを開設する場合に使用。 |
ブログ開設 | ブログを 始める | × ブログを初める | 既に別の CMS で運営経験がある。 |
海外投資 | 過去の経験を踏まえつつ、FX投資を 始める | × FX投資を初める | 為替取引は以前にも手掛けたことがある。 |
「書き初め」や「恋を見初める」—生活に息づく“初める”
ポイント:年中行事や古典表現に登場する“初める”は、日常のなかにもしっかり息づいています。ここでは、女性読者がイメージしやすいシーンを選んでご紹介します。
慣用句・行事 | シチュエーション | ひと言メモ |
---|---|---|
書き初め(かきぞめ) | 新年1月2日に、今年の抱負や好きな言葉を毛筆で書く行事 | 「筆をとって気持ちを新たにする」日本の伝統文化。SNSに投稿する方も増加中! |
見初める(みそめる) | 初対面で恋心を抱く瞬間 | 平安時代の物語にも登場するロマンチックな言葉。結婚式スピーチにも◎ |
咲き初める | 花がほころび始める季節の情景 | 桜・梅・紫陽花など季節レポートの語句として使うと、エモさが倍増! |
食べ初め(お食い初め) | 赤ちゃん生後100日目に行う祝い膳 | 「一生食べ物に困らないように」の願いを込めて。家族写真の定番行事です。 |
コラム:季節感と“初める”を上手に取り入れるコツ
- ライフログに映え…日記やブログに「春の花が咲き初めるころ」などと書くと季節感UP。
- 恋愛ストーリーでキラリ…「彼を見初めた瞬間——」と表現すれば、少女漫画のワンシーンのようなときめきを演出。
- 伝統行事を楽しむ…書き初めや食べ初めをSNSでシェアする際は、ハッシュタグ #kakizome や #okuiizome を添えて世界観を統一!
豆知識:古典文学では「初音(そめね)」=梅の初鳴きウグイスの声など、“初め”を含む季語が数多く見られます。季節を感じる日本語の奥深さを味わってみてください。
使い間違えやすいシーンと正しい使い分け方
- 過去の類似経験 があるか? → 始める
- 白紙状態からの挑戦 か? → 初める
- 不自然な重複表現 を避ける(例:新しく留学を始める → 留学を初める が自然)
- 目的と対象 を確認する:ビジネス文書かカジュアルか、文章のトーンによって選択が変わる場面もある
- 文脈の強調ポイント:成果や感情を強調したいときは「初める」を検討する
- 地域差 や 世代差 によって表現の好みが異なる場合もあるため、対象読者に合わせた微調整がおすすめです。
さらに深掘り
- 各種「始める/初める」パターンをまとめたワークシートを作成し、文章作成前にチェックリストとして活用することで、一貫性のある表現を維持できます。
「始める」「初める」と「初めて」「始め」に関する疑問を解消
「初めて」と「始めて」は何が違う?
- 初めて:人生で最初に経験することを表す。未経験であること、その瞬間の新鮮さや感情を強調(例:初めて海外に行く/初めてマラソン大会に出場する)。
使うときのポイント → 経験の有無を明示し、出来事の意義やインパクトを伝えたい場面に最適。 - 始めて:動詞の連用形の一部として使われ、動作開始後の経過や結果をつなげる(例:走り始めて10分で息が切れた/読み始めてすぐに物語に引き込まれた)。
使うときのポイント → 動作の流れや時間経過、続く出来事への橋渡しを表現したいときに適している。
絞り込み:どちらを使うかのチェックリスト
- 文中で「最初に~を経験する」のニュアンスか? → 初めて
- 動作の開始とその後の展開や結果をつなぎたいか? → 始めて
- 主語が「人」や「経験」を強調する場合 → 初めて
- 主語が「動作」そのものを描写する場合 → 始めて
似た表現「最初」「元々」「このたび」との違い
語 | 品詞 | ニュアンス | 例文 |
最初 | 名詞・副詞 | 時系列の一番目。順序を示す客観的表現。 | 最初にプレゼン資料を共有します |
元々 | 副詞 | 当初からの状態。変化前の事実を示す。 | 彼は元々プログラマー志望だった |
このたび | 副詞・連体詞的 | この機会に・今回、という硬めの表現。 | このたび新サービスをリリースしました |
NG例:「最初の経験を初める」→二重に「最初」を含むため冗長。
「初めて始める」は文法的に通じるが意味の重複が生じるため避け、初めてのプロジェクトやプロジェクトを始めるなど、簡潔に表現しましょう。
英語ではどう表現する?「始める」と「初める」の英語表現
begin・startの違いと使い方
単語 | コアイメージ | フォーマル度 | 代表用例 | ニュアンス/類義表現 |
start | スイッチを入れる・実務的 | 普通 | start a diet / start work | 最も一般的、日常的 |
begin | 動作の起点・丁寧・文学的 | やや高い | begin a speech / begin negotiations | フォーマル、書き言葉寄り |
launch | 世に送り出す・公開 | ビジネス寄り | launch a product | 製品やプロジェクトの公開 |
kick off | 試合のキックオフ由来・カジュアル | 低 | kick off a meeting | 会議やイベントの開始、軽い口語表現 |
embark on | 船出の比喩・冒険的 | 高 | embark on a new journey | 冒険的・大挑戦 |
take up | 趣味を手に取る | 普通 | take up yoga | 趣味や新しい活動への着手 |
venture into | リスクを取って踏み込む | 高 | venture into new markets | 新規市場や領域への進出 |
commence | 公式・堅めの始動 | 高 | commence operations | フォーマル、公式発表で使用 |
get started | 実際に取りかかる・口語的 | 低 | Let’s get started on the report | カジュアル、手軽に取りかかる時に最適 |
例文で比べる英訳と自然な英語表現
- 新しい仕事を 始める → I will start a new job.
- 新天地で人生を 初める → I will embark on a new life abroad.
- 未経験の趣味を 初める → She decided to take up pottery as a hobby.
- 長期プロジェクトを 始める → They launched a long-term project.
- 未踏分野にビジネスを 初める → The company plans to venture into the VR market.
- ヨーロッパ支社の業務を 始める → We will commence operations in our European office next month.
- レポート作成に 着手する → Let’s get started on the quarterly report.
- 新製品の販売を 開始する → The team will kick off the product launch event tomorrow.
翻訳 Tips:
- start / begin は「始める」文脈で 8 割以上カバー可能ですが、
- 正式・公式:commence / launch
- 冒険・新挑戦:embark on / venture into
- カジュアル:kick off / get started
- 趣味や軽い活動:take up
- 定期的な繰り返しやルーティンは start、一度きりの大きな挑戦は embark on が自然です。
「始める」と「初める」の使い分けポイントまとめ
ポイントをおさらい!それぞれの使い方早見表
始める | 初める | |
---|---|---|
キーワード | 継続・計画 | 新規・未知 |
キーワード(英訳) | start / begin / launch | embark on / take up / start anew |
代表例 | 勉強を始める/事業を始める | 留学を初める/起業を初める |
想起ワード | ルーティン / 習慣 / 準備済み | チャレンジ / イノベーション / フロンティア |
典型的文体 | 公式・ビジネス文書/ルーティン系 | ブログ・自伝/ドラマティック系 |
感情トーン | 冷静・論理的 | 熱意・探求心 |
検索ボリューム | 大: 9,000~3,500/月 | 中: 800~200/月 |
文章や会話で迷わない選び方と注意点
- 背景を確認:既存プロセスか、新規チャレンジかで最初に判断する。
- キーワードで判断:計画的行動→「始める」、未知の挑戦→「初める」。
- 文体トーン:ビジネスや報告では「始める」を、日記や自伝では「初める」を優先。
- 重複表現に注意:
- 「初めて初める」、「最初に始める」は冗長。
- 「新しく始める」より「初める」、または「始める」で簡潔に表現。
- 英訳も意識:
- 自然な対応動詞を使い分け、ニュアンスを保持。
- 例:start=日常/embark on=新挑戦。
- 世代・地域差を考慮:
- 若年層は「初める」を好む場合あり。
- フォーマル地域では「始める」使用率が高い傾向。
- 文脈の強調ポイント:
- 実績や成果重視なら「始める」。感情や体験重視なら「初める」。
- 視覚的フローチャート:
経験あり? ─ Yes → 継続目的 → 「始める」
└ No → 新規挑戦 → 「初める」
まとめ|3段ロジックでスッキリ判別
- 意味 → 同じ
- どちらも基本義は「始動する・開始する」。
- 読み方・用法 → 違い
- 始める(はじめる):単独動詞として使い、既知・継続行動のスタートに最適。
- 初める(そめる):連用形+初めるで使い、“ゼロからの挑戦”を描写。
- ニュアンス → 文脈依存
- 初めるは文学的・情緒的に響きやすい。
- 始めるはビジネス文書にも馴染む汎用形。
誤用チェックリスト
NG表現 | 正しい表現 | チェックポイント |
---|---|---|
仕事を初める | 仕事を始める | 過去に類似経験あり? → 始める |
新サービスを初める | 新サービスを始める | 計画済み・継続性あり |
海外生活を始める | 海外生活を初める | 完全未経験の挑戦なら初める |
ギターを始める(完全初心者) | ギターを初める | ゼロから学習 |
英語学習を初める(経験者) | 英語学習を始める | 基礎経験あり |
今日から正しい「始める/初める」をチェックリストで確認し、伝わる日本語を書き始めましょう!