徳島県には電車が1本もない?
完全非電化の理由・幻に終わった電車計画・汽車旅の魅力まで、現地目線で徹底解説します。
先に答えをひと言
徳島県には架線付きの電化区間が一つもないため、走っているのはすべてディーゼル式の「汽車」です。
したがって“電車”は一本もありません。
このページで得られること
- 徳島県に電車がない歴史的・技術的な背景がわかります。
- 電車と汽車の違いを初心者でもイメージできるように学べます。
- 未成線や将来計画を含めた徳島鉄道の最新動向をチェックできます。
- 観光客目線で楽しめる“汽車旅”の魅力とモデルコースを提案します。
まずは現状を整理|徳島県内に「電車ゼロ」は本当?
JR四国の路線図と車両タイプ
徳島県を南北につなぐ JR 四国の路線は主に以下の 4 本です。
- 高徳線:徳島駅⇔高松駅(約74km)
- 徳島線:徳島駅⇔阿波池田駅(約77km)
- 牟岐線:徳島駅⇔牟岐駅(約79km)
- 鳴門線:徳島駅⇔鳴門駅(約8.5km)
いずれも非電化 100%で運行しており、車両はディーゼルエンジンを積んだ「気動車」のみ。
代表的な形式はキハ 40 系や150 系などで、1 時間に 1~2 本のゆったりしたペースで走ります。
架線やパンタグラフがないため、車内から見える線路脇の風景は開放感があり、山間部や海岸線沿いの自然をじっくり楽しむことができます。
また、沿線の小さな駅には無人駅も多く、改札がないホームから直接乗降するスタイルも非電化ならではの風情です。
県内各地で古めかしい信号場や錆びた線路切り替え装置を目にすることができ、まるで時代がゆったり流れているかのようなローカル線の旅が味わえます。
県民が「汽車」と呼ぶワケ
徳島県では、列車のことを親しみを込めて「汽車」と呼ぶ文化が根付いています。
これは戦前から気動車中心の路線体系だった歴史が背景にあり、「電車」よりも「汽車」のほうが馴染み深かったためです。
- 方言と日常語:地域の学校や公民館のお知らせには「汽車時刻表」が常用され、子どもの遠足も「汽車で行くよ」と案内されます。
- メディア表記:地方紙やローカルテレビでも「汽車が遅延」と報じられることが多く、報道でも“汽車”という表現が定着。
- 旅人のエピソード:よそ者がうっかり「電車で来ました」と言うと、地元の方は優しく「汽車やで」と訂正してくれることもしばしば。これが逆に親しみやすさを生み、旅の良い思い出になります。
県民にとって「汽車」は単なる乗り物以上の存在。地域コミュニティのシンボルであり、日常の風景として暮らしに溶け込んでいるのです。
ミニコラム:気動車は“ディーゼルカー”とも呼ばれます
なぜ電化されなかった?歴史的・技術的 3 つの壁
高徳線トンネルの断面積が小さい
徳島〜高松を結ぶ高徳線には、明治〜大正期に掘削された小断面トンネルが数多く点在します。
これらのトンネルは当時の技術やコストを考慮して、最小限の掘削幅で建設されたため、天井高が非常に低く設計されています。
そのため、架線柱や架線を取付けるスペースが確保できず、電化工事を行うには以下のような大きな課題があります。
- 大規模な拡幅工事:岩盤を再度掘削・補強する必要があり、工費は数十億円規模に膨れ上がる。
- 長期間の運休:拡幅工事中は路線が使用できなくなるため、代替輸送手段の確保と地元住民への影響が深刻。
- 安全性の確保:古いトンネルでは法令基準に満たない部分もあり、耐震補強や換気設備の更新が同時に求められる。
これらの課題が重なり、電化に向けた技術的・経済的ハードルが非常に高いまま、現在まで見送られてきました。
四国新幹線構想が停滞
月日とともに四国横断ルートの夢は語られてきましたが、現状は調査区間のままで着工のメドが立ちません。
- 1973 年:全国新幹線鉄道整備法が制定され、四国新幹線(高松⇔松山⇔徳島⇔高知)が構想に。
- 1990 年代:四県連合で整備要望書を国に提出。期待が高まるも、バブル崩壊と財政難で先送り。
- 2000〜2010 年代:地元議会や鉄道誌で再度議論が活発化するも、社説や専門家の試算ではコスト回収のめどが不透明と指摘。
- 2020 年代:全国的な環境アセスメント制度強化により、詳細調査を開始。2025 年現在、政治判断や地元合意形成が遅れ、整備計画路線への昇格に至っていません。
このように、政治的・財政的要因が重なり、四国新幹線の実現は当面難しい見通しです。
国鉄民営化と地方投資の遅れ
1987 年の国鉄分割民営化では、JR 四国は他社に比べ利用者数が少ないため、設備投資余力が限られていました。
- 初期投資の再分配:民営化後、JR 四国には老朽線路の更新や安全対策が最優先された。
- 赤字体質の継続:最新の鉄道統計(国交省 2024)によると、JR 四国の営業キロ当たり投資額は JR 東日本の約 30% しかなく、電化工事に回せる予算は極めて限られています。
- 地方自治体の負担増:一部第三セクター路線では地元自治体が運営費を補填しますが、厳しい財政状況により積極的な電化投資につながらず。
- コスト・ベネフィットの課題:乗客数が少ない地方路線では、採算性を確保しにくいため、架線設置によるメリットが投資額を正当化できない状況です。
これらの要素が組み合わさり、地方路線の電化が極端に遅れる結果となりました。
電車と汽車の違いをやさしく解説
電車(電化路線)の仕組み
電車は、架線からの電力供給を前提に設計されており、屋根に取り付けたパンタグラフが架線へと接触し、そこで得た電力を車内の主電動機へと送ります。
これにより、加速・制動の制御を電子的に細かく調整できるため、乗り心地は非常に滑らかです。
また、エネルギー効率にも優れ、同じ距離を移動する際のCO₂ 排出量はディーゼル車よりかなり少なく、環境への負荷軽減にも貢献します。
さらに、モーターのメンテナンスは比較的シンプルで、オイル交換や燃料補給の手間がないため、長期的には維持管理コストを抑えられるのも大きなメリットです。
都市部の通勤路線や観光路線では、高頻度運行と安定した速度を両立できることから、多くの地域で導入が進んでいます。
- 運行時の静粛性:トンネルや住宅地付近でも騒音規制をクリアしやすい
- 断線リスクの回避:架線や変電所の二重化により、緊急時の対応が迅速
- 再生可能エネルギーとの親和性:ソーラー発電や風力発電と連携できる事例が増加
汽車(気動車)の仕組み
汽車(気動車)は、車両の床下に搭載したディーゼルエンジンで発電機を駆動し、その電力をモーターに送る「ディーゼル電気式」や、エンジンと車輪を直接つなぐ「ディーゼル機械式」などの方式があります。
架線工事が不要なため、曲線の多い山間部や人口が希薄な地域でも手軽に導入できるのが魅力です。
ただし、ディーゼル燃料の燃焼に伴う騒音・振動が大きめで、周囲へ配慮したサイレンサーや防振台車の設置が求められることもあります。
また、燃料価格の変動が運行コストに影響しやすく、年間の燃料費予算を確保する必要があります。
近年では、バイオディーゼル混合燃料の使用やハイブリッド気動車の試験導入など、環境負荷低減への取り組みも進行中です。
乗り心地・環境負荷の比較表
項目 | 電車 | 汽車 |
---|---|---|
加速のスムーズさ | ★★★★★(制御性が高く、速度変化を細かく設定可能) | ★★☆☆☆(エンジン回転数に依存し、レスポンスにばらつきがある) |
騒音・振動 | ★★★★☆(静粛性が高く、快適な乗車環境) | ★★☆☆☆(エンジン音が聞こえやすく、振動も感じやすい) |
CO₂ 排出量(同区間・同定員比) | ★★★★☆(電力源によるが、再生エネ利用でさらに低減可能) | ★★☆☆☆(軽油燃焼による直接排出) |
インフラコスト | ★★☆☆☆(架線と変電所の設置・維持管理で高額な初期投資が必要) | ★★★★★(路盤のみで運行可能、初期投資を抑えられる) |
停電時の影響 | ★☆☆☆☆(電力供給停止時は全線で運行停止) | ★★★★☆(自走可能だが、燃料補給が必要) |
メンテナンスコスト | ★★★☆☆(モーターや電子制御装置の点検が必要だが、消耗品は少ない) | ★★☆☆☆(エンジンオイル交換やフィルター交換などランニングコスト高め) |
徳島県内で幻となった電車計画
阿南電気鉄道|戦前に消えた“もしも”の路線
1930年代、阿南市と徳島市を結ぶ私鉄「阿南電気鉄道」の構想が持ち上がりました。
当初は市街地の約20kmをつなぎ、地元産業の活性化や観光振興を目的としていました。
用地買収は約70%まで進み、トンネルや橋梁の設計図も完成していましたが、1937年の日中戦争が激化すると、国家総動員法により鉄道資材の多くが軍需に転用され、工事は全面的に中断。
計画はそのまま凍結され、戦後に復活することはありませんでした。
- 設立準備組織:地元有志や商工会議所が中心となり、100社近い出資を募る大規模プロジェクト。
- 技術的特徴:トロッコ列車での鉱石輸送も見込まれたため、貨客混合型の車両設計が進められていた。
- 中止後の影響:現在も阿南駅周辺には用地の一部が放置され、空き地として残っています。歴史をたどる碑も地域資料館に展示されています。
阿波電気軌道|敷設免許まで取得していた計画
大正期に計画された「阿波電気軌道」は、徳島市から鳴門市まで約15kmを路面電車で結ぶトラム構想でした。
1915年に軌道敷設免許を取得し、主要街道沿いの敷地が確保されていましたが、資金調達の失敗と第一次世界大戦後の物価高騰が直撃。
建設費用は当初見積もりの1.5倍に膨れ上がり、事業主体はやむなく計画を断念しました。
- ルート下見報告:当時の測量図では、現在の国道11号沿いに複数の停留場が設定され、観光地として有名な鳴門海峡沿いにも駅を設ける計画。
- 事業主体:徳島県内の有力銀行や財閥の出資が予定されていたが、地方銀行が相次いで撤退。
- その後の跡地利用:敷設予定の一部区間は早くもバス路線に転用され、現在の路線バス網の骨格となりました。
現在検討中の LRT/BRT 計画は?
2024年に徳島市が正式に発表した次世代型路面電車(LRT)の事業性調査では、年間利用予測数を30万人と見込み、沿線開発による駅前再開発や複合型商業施設の誘致も計画に含まれています。
同時に、BRT(バス高速輸送システム)とのコスト比較調査が行われ、LRTの初期導入費用と運営費を抑える施策も検討中です。
地方自治体や地域住民、地元企業からは「渋滞緩和」や「環境改善」に対する期待の声が多く、2026年度中の中間報告公表後には、地元議会での最終決定を目指す動きが活発化する見込みです。
汽車だけが走る徳島県・完全非電化路線の魅力
- 撮り鉄向けビュースポット 5 選
- 撫養駅付近の海沿いカーブ:早朝の光が海面に反射し、レトロなディーゼルカーが映える絶好の撮影ポイント。
- 穴吹川鉄橋の夕景:鉄橋を渡るキハ40系が、オレンジ色に染まる川面と重なるドラマチックな風景。
- 桑野川を渡るキハ40系:静かな田園地帯を背景に、古い橋梁を渡る姿が情緒的。
- 阿波池田駅周辺の構内風景:レトロな駅舎と気動車の組み合わせがノスタルジックな一枚に。
- 由岐駅ホームの待合室:木造の待合室越しに見える気動車が、旅情をそそるフォトジェニックスポット。
- 気動車旅で寄りたい沿線グルメ 5 選
- 鳴門わかめうどん(鳴門駅前):新鮮な鳴門わかめをたっぷり使ったコシのあるうどんで体が温まる。
- 祖谷そば(阿波池田):山あいの清流で育ったそば粉を使用した香り高い手打ちそば。
- 阿南の竹ちくわ:老舗ちくわ店でしか味わえない、焼きたてのもちっとした食感。
- 脇町の藍染スイーツ:藍染工房カフェで楽しむ藍色のスイーツセットでインスタ映え。
- 大歩危・小歩危の川魚料理:郷土料理店で提供される鮎やアメゴの塩焼き。
- 「鉄道+バス」で巡るモデルコース(1 日プラン)
- 08:30 徳島駅発:キハ40系に乗車し、のんびり車窓を楽しむ。
- 10:00 牟岐駅着:駅前散策後、路線バスに乗り換え。
- 11:30 日和佐うみがめ博物館見学:ウミガメの生態を学び、昼食は海鮮丼を堪能。
- 14:00 大浜海岸で海水浴・散歩:汽車の旅ならではの寄り道スポット。
- 16:00 産直市で地元お土産選び:柑橘類や加工品をチェック。
- 17:30 路線バスで徳島駅へ戻り:夕暮れの景色を楽しみながら1日の旅を締めくくる。
うっかり「電車」と言うと「汽車」です!県民カルチャー豆知識
- 学校の遠足案内も「汽車で行きます」
- 地元ニュースも「汽車が遅れています」と報道
- 観光客は「汽車に乗る」と言うと会話がスムーズ
- 子どもたちは通学のことを「汽車登校」と呼びます
- お土産店では「汽車キーホルダー」が定番
覚えておくと便利な言い換えフレーズ
言いたいこと | 県民向け表現 |
電車の時間は? | 汽車の時間は? |
電車で行こう | 汽車で行こう |
電車の到着は? | 汽車の到着は? |
電車を待つ | 汽車を待つ |
次の電車は何時? | 次の汽車は何時? |
まとめ|徳島県に電車がない理由とこれから
- 徳島県はトンネル断面・投資遅れ・新幹線停滞などが重なり、非電化が続いています。
- 電車と汽車の違いを知れば、気動車旅ならではの味わいが見えてきます。
- LRT 構想など将来の動きに注目しつつ、今しか体験できない“汽車のある風景”を楽しみましょう。